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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)1547号 判決 1993年4月21日

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人二葉正男及び同有限会社サントクは、控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録記載の建物を明け渡し、かつ平成三年二月九日から右明渡しずみまで一か月金二四万四八〇〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

四  この判決は、金員の支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  請求原因及び抗弁事実に対する判断

請求原因及び抗弁事実に対する認定・判断は、原判決五枚目裏五行目から同末行までに記載のとおりであるから、これを引用する。

第二  再抗弁に対する判断

控訴人は、被控訴人二葉が、被控訴人サントクに本件建物を転貸したと主張する。

一  被控訴人二葉が、株式会社吉野家とフランチャイズ契約を締結し、本件建物で牛丼屋を経営していたこと及びその営業形態、被控訴人二葉が、被控訴人サントクとの間で、牛丼屋の営業に関する契約を締結するに至つた経緯及びその経営形態等に関する事実認定は、次に訂正付加するほかは、原判決の六枚目表二行目から同八枚目表六行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決六枚目表二行目の「甲第七」から五行目の「認められる。」までを次のとおり改める。

「《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。」

2  同七枚目表二行目の「宮下と知り合いであつた。」の次に改行のうえ、「被控訴人サントクが右要請を断れば、被控訴人二葉は、自ら本件建物で牛丼屋を営業する能力も意思もなく、控訴人との賃貸借契約を解約し、控訴人に本件建物を返還することを考えていた。」を加え、同四行目の「経営の委託に関する契約」を「営業ないし経営の委任を内容とする契約」と改め、同七枚目裏一行目の「店舗営業全般の管理を行つている。」を「店舗営業全般の管理を行つており、被控訴人二葉自身は、これらに全く関与していない。」と改める。

3  同七枚目裏七行目の「売上代金から」から同八枚目表三行目の「送金している。」までを次のとおり改める。「売上代金から所定の経費、経営管理の対価等を差し引いて算出した金額を一応の目安とし、これを営業の貸借の対価として被控訴人二葉に対し支払うという趣旨で、毎月末日に被控訴人サントクが、被控訴人二葉に送金している。しかし、その額は、以前の吉野家時代の実績をもとに、一か月五〇万円(一月と一二月は、七〇万円)と定められ、現実にも、これまで一貫して右定額が支払われてきたが、被控訴人サントクは、右店舗の営業実績について被控訴人二葉に報告をしたことはないし、また、被控訴人二葉からも被控訴人サントクに右報告を求めたことはない。被控訴人二葉は、右の定額金を賃料収入として所得申告をしている。なお、被控訴人サントクは、右定額金に加え、店舗における水道料金・光熱費、共益費並びに被控訴人二葉が控訴人に支払うべき家賃相当分を、被控訴人二葉名義で控訴人に送金している。」

二  右認定の事実関係、特に、(1) 被控訴人サントクは被控訴人二葉に対し、毎月定額の五〇万円(一月と一二月は七〇万円)を支払うものとされ、現実にこれまで支払われてきたこと、(2) 被控訴人二葉は本件建物での牛丼屋の営業に関与していないこと、被控訴人サントクが営業全般の管理を行つているが、その営業実績の報告はされていないこと、被控訴人二葉と被控訴人サントクとの契約締結に至る経緯などからすれば、右定額の金員は、被控訴人サントクの計算と危険負担のもとに、右営業による損益や利益金の多少にかかわらず被控訴人二葉に支払われるものであることが推認されること、(3) 本件店舗における牛丼屋の営業、すなわち、材料の仕入れ、派遣従業員の給料、光熱費その他必要経費の支払や売上代金の管理等は、すべて被控訴人サントクの計算においてなされ、同被控訴人の預金口座を利用して行われていること、以上の諸点に照らして考えると、被控訴人二葉と被控訴人サントクとの間の、本件建物での牛丼屋営業に関する契約は、受託者たる被控訴人サントクの計算で営業を行う狭義の経営の委任契約であり、実質は営業の賃貸借であると認めるのが相当である。

そうすると、右契約の効果として、被控訴人二葉は被控訴人サントクに対し、営業の基盤である本件建物の利用を可能ならしめる義務を負い、そのためには本件建物の占有を移転することを要し、被控訴人サントクは、本件建物を利用して賃借営業を自己の計算で営むことができるが、そのうちの本件建物の利用関係の移転は、控訴人との関係では、建物の転貸借に当たると認められる。

したがつて、被控訴人二葉が、被控訴人サントクに本件建物で飲食店を営んで使用収益させているのは、転貸に当たる旨の控訴人の主張は理由がある。

三  控訴人が、平成三年一月一九日に到達した書面で、被控訴人二葉に対し、本件建物の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。

第三  再々抗弁に対する判断

一  被控訴人らは、本件建物の転貸借には、信頼関係を破壊しない特段の事情があるとし、「牛丼屋」の経営形態と株式会社吉野家が行つていたフランチャイズ契約とは基本的に変わつておらず、控訴人は格別の不利益を被ることはないと主張する。

しかしながら、前示事実関係によれば、被控訴人二葉と吉野家のフランチャイズ契約では、毎日の売上金は同被控訴人の銀行口座に振り込まれ、その中から、同被控訴人が、毎月、吉野家が指定する金額(フランチャイズフィーに広告宣伝費等を加えたもの)を、吉野家に支払つていたことからすると、同被控訴人が、本件店舗の売上金を取得し、営業経費を支出し、同被控訴人の計算で営業が行われ、したがつて、営業利益も損失も帰属する同被控訴人が経営権の主体であると認められるのに対し、被控訴人二葉と被控訴人サントクとの契約は、受託者たる被控訴人サントクの計算で営業を行う狭義の経営の委任契約であり、実質は営業の賃貸借であると認められるから、経営権の実質は被控訴人サントクに帰属し、被控訴人二葉は経営に関与せず、被控訴人サントクから営業の貸借の対価として、毎月定額の金員を受領する地位を有するにすぎない点で、吉野家とのフランチャイズ契約とは経営形態を異にする異質の契約というべきである。

そして、《証拠略》によれば、控訴人と被控訴人二葉の本件建物賃貸者契約において、被控訴人二葉は控訴人の書面による承諾がなければ、本件建物を他に転貸できない旨の特約がなされていることが認められるところ、被控訴人二葉は、本件建物を被控訴人サントクに転貸しながら、控訴人に右転貸の承諾を求めたことはなく、被控訴人サントクとの契約により、本件賃貸借の賃料の二倍を上回る利益を毎月収得していたのであり、加えて、控訴人と信頼関係もなく、また、控訴人の制肘の及ばない経営者が、本件建物を使用することを控訴人において甘受しなければならない理由はないこと等を考慮すると、本件建物の転貸借には、信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるということはできない。

二  被控訴人らは、控訴人が、本件建物での「吉野家」から「牛丼屋」に至る前記二店の経営を認識しながら、平成二年七月に疑いをもつまで、長期にわたつて異議を述べていないと主張する。

1  被控訴人二葉と吉野家とのフランチャイズ契約に基づく営業は、同被控訴人が経営権の主体であり、本件建物の転貸に当たらないことは、前示のとおりであるから、控訴人が、右フランチャイズ契約の実体、経営形態について知つていたから、転貸の事実も知つていた旨の被控訴人らの主張は理由がなく失当というべきである。

2  次に、被控訴人サントクと被控訴人二葉との契約に基づき、昭和六二年一一月以降、本件建物で「牛丼屋」の看板を掲げて行われている営業は、被控訴人サントクが経営権の主体と認められ、本件建物の転貸に当たることは、前示のとおりであるが、控訴人が、昭和六二年一一月以降、平成二年七月頃までの間、右の経営形態を知り、転貸状態にあることを知りながら、これを黙認していた旨の被控訴人ら主張事実は、本件における全証拠によつても認めることはできない。

かえつて、《証拠略》によれば、控訴人は、平成二年七月頃、本件建物の隣地で別の建物の解体作業をしていた際に、本件店舗のクーラーの室外機を誤つて破損したことから、控訴人代表者が本件店舗の従業員と折衝する中で、転貸の疑いを抱くようになつたことが認められる。

3  以上のとおりであつて、被控訴人らの右主張は採用できない。

三  その他、被控訴人らは、本件明渡請求は、無断転貸を理由とする賃貸借契約解除に名をかり、実際は、経済的効果を狙い、被控訴人二葉の本件店舗の立退きを迫つたものであり、信義則に反する行為であると主張する。

しかしながら、被控訴人らの右主張が採用できないことは、これまで認定・説示したところに照らして明らかであり、他に、本件における全証拠によつても、控訴人の本件賃貸借契約解除及び建物明渡請求が、信義則に反する事由を見出すことができない。

四  したがつて、被控訴人らの再々抗弁は理由がない。

第四  以上のとおりであるから、本件賃貸借契約は、控訴人の前記解除の意思表示により、平成三年一月一九日に終了したものというべきである。

第五  してみれば、被控訴人二葉に対する賃借権不存在確認の予備的請求について判断するまでもなく、被控訴人二葉及び被控訴人サントクに対し、本件建物の明渡し及び本件賃貸借契約解除の日である平成三年二月九日から右明渡済みまで、一か月金二四万四八〇〇円の割合による賃料と同額の損害金の支払を求める控訴人の主位的請求は正当として認容すべきである。

よつて、これと異なる原判決は不当であつて、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して、控訴人の主位的請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九三条に、仮執行宣言につき同法一九六条に各従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 松村雅司)

裁判官小原卓雄は、転任につき、署名押印することができない。

(裁判長裁判官 志水義文)

《当事者》

控訴人 株式会社 コースト

右代表者代表取締役 岸 真一

右訴訟代理人弁護士 清水賀一

被控訴人 二葉正男

被控訴人 有限会社 サントク

右代表者代表取締役 宮下隆志

右両名訴訟代理人弁護士 羽柴 修 同 野田底吾 同 古殿宣敬 同 本上博丈 同 西田雅年

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